前回は習慣について話しましたが、今回は礼儀について。
僕は中国で長年住んでたので、日本に帰ると日本人の礼儀やサービス、良心的なホスピタリティーに関心させられる。

日本人がついつい口癖のように言ってしまう『すいません』。
『面倒をおかけして申し訳ない』 『本当にすいません』。
これらは、仕事または留学で日本で生活している中国人が最初に一番溶け込めない部分かもしれない。

日本語の勉強みたいだけど、『すいません』ってただ『すいません』だけの意味とは違う。
時には『ありがとう』といった謝意が加わる。
でも中国人から見れば、いつも『すいません』と言われると逆に『遠慮し過ぎだよ』、『他人行儀だな』、『なんか距離間を感じるよ』
といったような思いに駆られてしまう。

僕も北京に来た最初の頃はよくお辞儀していた。
『すいません』も一度ではなく『すいません、、すいません。』の連呼だった。
さすがに今はそれはしなくなった。

北京にいたころ、近くのコンビニで買い物をした帰り、マンションの玄関の警備員がいつものようにドアを開けてくれた。
ついつい軽い気持ちで『シエシエ(ありがとね)』と言うと前を遮られ、『あんた、何階に行くんだ?』と問い詰められた。
この意味分かるでしょうか?
黙って通れば何んてことなかったところを、僕がご丁寧に『ありがとう』と言ったために、その警備員からすれば耳慣れない言葉をいわれたので私を外部の者だと認識したんですね。でも被っていた帽子をとって会釈をしたら通してくれた。

一般の日本人の方から見れば理解しがたい部分ではあるけど、必要のない『ありがとう』が中国には歴然として存在している。
言うほどのものでもない『ありがとう』。
でも必要な『ありがとう』もある。

例えば、新幹線に乗って弁当を食べようと思った時、前方の人が座席シートを後ろに下げた。
狭くなって食事しずらい。
前の人にシートを少し戻してもらいたい。
この場合日本では恐らく『すいません、少しシート戻してもらえますか?』となるでしょう。
こちら側の願いを相手に聞いてもらっている申し訳けなさから『すいません』という言葉が出るのは理解できるし、日本的な低姿勢はけっして悪い事ではない。
でも中国ではこのようになる。
『少しシート戻してください、ありがとう!』というように“お願い”+“決め込み”となる。

中国人は人にお願いをするときに相手が受け入れるか受け入れないかに関わらず先に “ありがとう”という。
これは欧米圏のやり取り、例えば“お待たせしてすいません”を、“Thank you for waiting”というが、どこか似ているかもしれない。
先に“ありがとう”と言われれば相手は受け入れざるを得ないという暗黙の了解。
少し強引に見えるけど、これに関しては中国式の方が痛快で気持ち良さを感じる。
人にお願いするわけであるから、本来は『すいません』は必要のない言葉、むしろ率直に『ありがとう』であるのかなと思える。

日本に長年住んで習慣として身についた言葉、そして条件反射のように常に口にしていた『すいません』は、
今ではほとんど『ありがとう』に代えて使う機会が多くなった。
その『ありがとう』の中に『すいません』の意を込めて使うようにしている。

矢野浩二

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